『さらざんまい』(アニプレックス)


 
 久々の幾原邦彦作品ということで、全話on-airチェックしたぜい。相変わらずワケわからんぞ。ワケわからんまま、うまくまとめられた感じ。舞台が実際の浅草周辺の地理を押さえているのが、表象が乱舞する物語にアンカーが降ろされた印象を持つ。

 

藤井青銅『「日本の伝統」という幻想』( 柏書房)


「日本の伝統」という幻想

「日本の伝統」という幻想


 前作『「日本の伝統」の正体』の続編的体裁で、世にはびこる「伝統ビジネス」と「伝統マウンティング」の真実を抉り出す。前作では、日本の伝統とされる諸々を、その歴史の浅さを容赦なく詳らかに晒して、数々の歴史企画本を物している著者の面目躍如だったが、本作では諧謔味をもっと強くして、「伝統」なるものを振り回しながらも振り回される、この国の集団性向の滑稽さを、飄々とする語り口で剔抉していく。あとがきまで読み終わると、「日本の伝統」がトレーディングカードのごとく思えてくる。

 

芦原すなお『ハムレット殺人事件』(東京創元社)レビュー



 まあ、ゆるーいミステリーだけれども、語り口のなめらかさと奇抜なナゾ設定で許せる。ひとを喰ったハナシをひとを喰ったまましれっと展開させる悪気のなさが、大ベテランの練達さと表裏一体で、この小説空間にいつまでも浸っていたいものだと思わせる。

 

有栖川有栖『こうして誰もいなくなった』(KADOKAWA)レビュー


こうして誰もいなくなった

こうして誰もいなくなった


 作者はこれまでにもバラエティを重視した作品集を出してきたけれども、芸達者ぶりを示していたことはそうなのだが、むしろ作者の物語の捌き方の手際に少し無骨なものを感じたのだった。本作品集も、多芸さをして読者を面食らわせしむ愉しさを覚えるより、作者の一回ごとの構築性の確かさを味わうような読み方になった。ただ上手いだけの書き手にはなってほしくないのだが。

 

クリス松村『「誰にも書けない」アイドル論』 (小学館新書)



 アイドル関連の本だと、近年の名著だなあ、とつくづく。アイドル「冬の時代」前の80年代アイドルのデビュー状況を年ごとに逐一つまびらかにしてくれる。アイドルがヒットチャートの上位を占めていた時代は、じつはシングルの総売り上げが低く、アイドルが時代の鬼っ子だと断じるくだりは、アイドルファンであるが故の熱いエピソードが数々語られているだけに、ちょいグッとくるものがあるね。

伊藤たかみ『ぼくらのセイキマツ』(理論社)レビュー


ぼくらのセイキマツ

ぼくらのセイキマツ


 やっぱり凡百のコドモダマシ作家と違って、文章の息遣いの上手いこと巧いこと。ゆるやかに主人公たちを襲う焦燥感と停滞感。世間を覆う空気感への反発と抵抗。リッパに愉しい児童文学なのに、なんともみずみずしいラブストーリーだ。コドモ時代のマジメな七転八倒ぶりが懐かしい人にオススメ。

 

加藤典洋さん、お疲れ様でした。

9条入門 (「戦後再発見」双書8)

9条入門 (「戦後再発見」双書8)

 
 加藤典洋さんの訃報には、ただただ悄然とするばかり。デビュー作が『アメリカの影』で、遺作が『9条入門』って、出来過ぎだろ。悲しいくらいだよ。おいおい加藤の批評作品にはふれていきたいがとりあえず読むべきはこれ。
ゆるやかな速度

ゆるやかな速度