西澤保彦『夢の迷い路』(幻冬舎)レビュー


夢の迷い路

夢の迷い路

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 いつのまにか始まった新シリーズ、いずれも一筋縄ではいかぬアクロバティックなロジックが冴えるが、作者のものとしてはその衝撃度はフツーのレベル。ただ、新シリーズを始めるのだったら、新鮮なインパクトを与えるものであってほしかったなあ。いや、フニャフニャした童貞野郎には共感を覚えるんだけれどもさ。

大塚英志『感情天皇論 』 (ちくま新書)レビュー


感情天皇論 (ちくま新書)

感情天皇論 (ちくま新書)

 
 著者の久々の文芸批評ということで、なかなかの手応え、はある。平成天皇をめぐる文学者たちの屈託を剔出する手際は、著者独自の鮮やかさだ。が、「シン・ゴジラ」を扱い始めてからの後半から、なんだか著者の足場がグラグラに揺らいでいる感じがつきまとう。「感情天皇」をめぐる「物語」の断念を言上げするばかりに、「感情」化を克服する日本の「私」に言及が少なく、著者がポスト「感情天皇制」の指針を示し得たとは言えないだろう。

武田砂鉄 最果タヒほか『平成遺産』(淡交社)レビュー


平成遺産

平成遺産


 リベラル左派系論者を中心にした「平成」をめぐるエッセー・オムニバス。まあ最後に卓袱台をひっくり返す武田砂鉄のはあまりにもベタな仕草で鼻白むが、女性論者の筆が冴えてる。というか、語っていることが時代の本道すぎる。みうらじゅんも含めて男たちは添え物的存在感の薄さが如何ともしがたいが、世紀末から世紀初頭の社会的カオスは、女たちを防波堤に氾濫=反乱をコントロールされていたのか。

大塚英志『大政翼賛会のメディアミックス 「翼賛一家」と参加するファシズム』(平凡社)レビュー



 久々に読む大塚英志サブカル批評・研究本だが、この「メディアミックス」はサブカルではないのだった。大政翼賛会主導のメディアミックス企画だった「翼賛一家」。戦時全体主義たる「新体制」が仕掛けたメディアミックスは、近代日本人の共同体的意識の空虚を補填しながら、昭和初期のサブカル精神を蚕食していく。「翼賛一家」の痕跡は、帝国日本が崩壊してから、手塚治虫の「勝利の日まで」に突っ込まれた戦時全体主義の戯画的な影として、手塚マンガの主題性の誕生に到る前段に費やされることになる。

 

若竹七海『殺人鬼がもう一人』(光文社)レビュー


殺人鬼がもう一人

殺人鬼がもう一人


 作者の底意地の悪さが瀰漫しているような連作集。うーん、若竹作品のなかでも、かなり毒気に当てられる本だぞ。ケーサツ小説のファースかと思いきや、ニヒリズムと戯れているような手触りが強く印象付けられる。ギミックもこのような感覚と直結しており、掉尾を飾る表題作は、あっけらかんとした救いようのなさで、直球なアンチカタルシスだね。

 

アニメ『風が強く吹いている Vol.1 』(東宝)レビュー



 原作未読のまま、半年間見た。ほぼオトコしか出てこないのに、男臭くないのは長所。ていうか、いい意味で、デオドラントな効果はあるよね、アニメって。超人めいたキャラは出てこないので、退屈でも親近感をもってみられた。でもまあ、原作をひもとこうとは思わないが。 

 

堀内公太郎『タイトルはそこにある』(東京創元社)レビュー


タイトルはそこにある (ミステリ・フロンティア)

タイトルはそこにある (ミステリ・フロンティア)

 
 どうもキワモノめいたタイトルの作品ばかり刊行しているようで興味が湧かなかったが、創元本ということで、作者のものを初めてひもとく。編集者に出されたお題を消化するだけじゃ物足りなく、お題を逆手にとって出題者をギャフンといわすような展開は、採用権は向こうにあるから、やっぱり望めないみたいで、でも四番目の話はウマいことやったんじゃないか、と思うが。