e‐NOVELS編『川に死体のある風景』(東京創元社)レビュー


 
 歌野晶午「玉川上死」 古典的トリックに鮮やかな反転劇を仕掛ける/黒田研二「水底の連鎖」 謎の設定の秀逸さに比べて、真相はちと強引かな/大倉祟裕「捜索者」 “山か川か”山です、やっぱり(笑)にしても、太田蘭三、梓林太郎の諸作に続く山岳ミステリとして、これのシリーズ化を!/佳多山大地「この世でいちばん珍しい水死人」 集中ベストかな、やっぱり。/綾辻行人「悪霊憑き」 この作者らしい人を喰った話/有栖川有栖「桜川のオフィーリア」 誘惑するオブジェ
 “川”を舞台にしたミステリといったら、そりゃあんた、連城三紀彦の「戻り川心中」でしょー。これとタメはってほしかったなあ。…………歌野晶午が序文で記しているように、“川”に浮かぶ死体がミステリアスな空気を強烈に醸成するのは、流動する水に曝され漂い、すっかり個人の属性が剥離した「身元不明」の“死者”が、都市なり共同体なりの生活空間に、ひょっこりと出現するからだ。寄る辺なき“死者”。この根源的な“異邦人”の不吉さに、我々は魅了される。