伊野上裕伸『赤ひげの末裔たち』(文藝春秋)レビュー

赤ひげの末裔たち―小説・お医者さま生態図鑑

赤ひげの末裔たち―小説・お医者さま生態図鑑


 

 医は仁術か算術か、はたまた権謀術数か――医療経済のバランスシートが、赤ひげの末裔たちを道化に変える。社会派小説といえばその通りだけれども、カリカチュアのさじ加減がいい塩梅(第一話「裏口入学」のトホホ感溢れるブラックユーモアを見よ)なので、抵抗なく読める。というか、病院経営をめぐる環境から、現行保険制度の間隙、組織内部の独特の相克などが、各話の悲喜劇を通じて、手に取るように把握できる。小説の持つミクロコスモスの縮減的機能が十全に発揮された例だろう。特に、第二話「むち打ち」、第四話「診療ミス」が結末のツイストが利いている。これは、思わぬ拾いものだった。