大沢在昌『影絵の騎士』(集英社)レビュー

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いま、ハードボイルド、PI小説のフィールドで、一番持ち重りのある“小説”を書けるひと――って、90年代からずっとだけれども。でも、PI小説の定型を、単なるガジェットとして終わらせないための手練手管の試行錯誤、とでもいったものの有無って、やっぱり大きいんだなあ、と。作者が、作風に都市小説的視野をも収めたことで、“小説”が本当にスリリングになった――実は、島田荘司と問題意識を共有する領域が増えてきた、と個人的には思う。この作品、『摩天楼の怪人』と比較検討してみたい欲求に駆られる。…………スペクタクル社会の発展を背景に、メディア産業をシノギの“場”として設定して、『B・D・T』浄化後の「新東京」の原発を抱える「ムービー・アイランド」でめぐらされる血と破壊の大陰謀。主人公をカメラ・アイに仕立てた「帝王」のごとく、読者は、探偵の軽口に付き合いながらも、彼の巻き込まれる災厄にも同伴することになる。――何が“現実”で、どこから“シナリオ”なのか。しかし、作者が、その洗練されたアイロニーを提示するのは、ラスト1ページ。やはり、“革命”の本質は“蕩尽”なのだ――非当事者にとっては、“無意味”という意味で。