古処誠二『敵影』(新潮社)レビュー

敵影

敵影



 
 <戦争>における罪と罰という問題性を、“恥”という日本的意識に交錯させるというモチーフは、さらに深化している。この延長線上には、道義的な責任、という、ヤスパースのいう「道徳」上の責任とも「形而上的」な責任ともまた違う、なにものかがある。その一方で、坂口安吾の意識に通じていると思しきシーンもあり、決して一枚岩な小説世界ではない。作者の一連の作品は、「戦争小説」というより、“終戦”小説、というべきではないか。