佐々木譲『警官の血 上・下』(新潮社)レビュー

警官の血 上巻

警官の血 上巻

[rakuten:book:12207352:detail]

 
近年の日本ミステリ界は、まさに警察小説ルネッサンスというべき状況ですね。わが国において“警察小説”にイノベーションを与えたのは大沢在昌高村薫横山秀夫などだけれども、周知のように、最近の作者の“警察小説”に対するコミットの仕方も只事ではない。本作は、作者も含めて、現在“警察小説”が書かれるそのモチベーションというか、“警察小説”を通して<作者>たちが何を透視しようとしているのか、その意識のありかたが、そのまま結晶化したような作品である。タイトルからしてある種の情念を感じさせるものだが、本編はむしろ筆致には一定の抑制が感じられる。ある警官一家の三代記で語られるものは、あらゆる“悪”のショーケースでもある。“正義”とは、むしろ、そこからの分泌物のごときもののようで、親たちの“警官”としての道程を辿るのは、“矜持”というものが、一体どこから汲み出されるのか、“警官”が「白と黒、どっちでもない境目の上に立っている」存在であればなおのこと、この問いは通奏低音として全編を通して流れる。