東川篤哉『もう誘拐なんてしない』(文藝春秋)レビュー

もう誘拐なんてしない

もう誘拐なんてしない


 
ミステリアス
クロバット
サスペンス
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インプレッション
トータル39


 作者が赤川次郎へのリスペクトを鮮明にしているのには、とても好感を持つ。赤川が日本ミステリに拓いた境地が、打ち捨てられていいわけがない。作者の芸風はそれよりスラップスティックだけれども、基底にある“ユーモア”には相通ずるものがある。どの部分で人間を戯画化するか、というセンスの問題であるけれども、デビュー時よりも、作風が洗練されてきたということだろう。本作は、大胆不敵なトリックを放り込んで、あとはどこまで騒がしく描けるかに傾注した感のある快作。