大沢在昌『黒の狩人 上・下』(幻冬舎)レビュー

黒の狩人〈上〉

黒の狩人〈上〉

黒の狩人 下 (2)

黒の狩人 下 (2)



 “国境”が流動化しているなか、警察官の行動規範の礎になるものを問おうとする作者の姿勢は、いささかも揺らいでいない。作者は“正義”と“大義”と“倫理”が、重なるようで、決定的に齟齬することを、最も深いところで捉えている。そして、それらの間で、「愛国心」とやらが空虚になることも。読者は、複雑巧緻なプロット、物語の息つかせぬ展開に身を任せていればよいが、読後、“国家”が、各キャラクターの行動規範の集積、そのアモルファスな像の背後から、どのように浮かび上がってくるか、そんな挑発を作者はしているのではないかと思わせる。