乾ルカ『四龍海城』(新潮社)レビュー

四龍海城

四龍海城



 『密姫村』『六月の輝き』『てふてふ荘へようこそ』と毛色を違えて、超自然的物語を紡いで確かな力量を読者に示した作者が描く、ジュブナイルの色を淡く残した良質なファンタジーだが、読み方をずらせば、異色のビルドゥングス・ロマンにもなる。通過儀礼をめぐる寓話の趣があるのだが、“経験”というものが“主体”を形成していくとき、それは身体性に訴求してなされるということ、成長するということは、抽象的世界に足を踏み入れるということでもあることを実感した。――抽象的な言及になったのは、ネタバレを避けたため。