岸田るり子『味なしクッキー』(原書房)レビュー

味なしクッキー

味なしクッキー



 心理サスペンスと本格ミステリ的プロットの重層的な味わいの愉しめる短編集。短編のかたちで、長編のときよりも作者の方向性が明瞭に伝わってくる。冒頭「パリの壁」と掉尾を飾る表題作が心理ミステリ的技巧の冴えを現し、挟まれた四編がプロット構築の技量を示して、職人芸的安定感を与える。