石持浅海『人面屋敷の惨劇』(講談社ノベルス)レビュー

本日のエピグラフ

 十年も待ちこがれていた子供に、再会できたとする。そのときに、子供が喜びのあまり抱きついてくれるという保証はないのだ。(p.142)

人面屋敷の惨劇 (講談社ノベルス)

人面屋敷の惨劇 (講談社ノベルス)



ミステリアス
クロバット
サスペンス
アレゴリカル10
インプレッション
トータル44


 作者の近年の作品の中では、最もツボにはまった。善と悪の両義性を、不気味なものとしてきっちり描き出した。だから、いい感じに見える結末も、不吉さを孕んでいる。この両義性は、価値観の相対主義に基づいているので、やっぱりこの人はコミュニタリアン的気質はあるのだろう。そして、モラルの反転性に自覚的な部分が、強烈なサスペンスを醸し出すのだ。