2011年下半期本格ミステリベスト5

 年がだいぶ明けてから振り返るのもなんですが、2011年は下半期(5月〜10月)も豊穣でした。『謎ディナ』200万人近くの読者の一割が本格ミステリに目覚めたとしても、20万人。本格の創作コストは高くつくけれども、それが報われる小説市場であってほしいよね。


生霊の如き重るもの (講談社ノベルス)

生霊の如き重るもの (講談社ノベルス)



第1位:三津田信三『生霊の如き重るもの』
 安定株。次作長編はホラー色が強まるそうなのだけれども、そっち系の住人に完全にならないでほしいんだけれども。どうかなあ。


鍵のかかった部屋

鍵のかかった部屋



第2位:貴志祐介『鍵のかかった部屋』
 名人芸。つまるところ、方法論を知っているってこと。何の方法論? 小説の構築性の、だ。他の作家が、骨組みにこだわって伽藍を建築するところを、この作者は、煉瓦をひとつひとつ積み上げて、小説空間を囲い込むのだ。


密室殺人ゲーム・マニアックス (講談社ノベルス)

密室殺人ゲーム・マニアックス (講談社ノベルス)



第2位:歌野晶午『密室殺人ゲーム・マニアックス』
 自分が設定したゲーム空間の生長と自壊を、とことんまで突き詰めていくことを、作者は目論んでいるようだ。反劇場型犯罪ゲームが、劇場型犯罪の領域に突入して、カタストロフィは目前に迫っている気がするが、一体どんな様相を呈するのか、ちょっとゾクゾク。


吸血鬼と精神分析

吸血鬼と精神分析



第4位:笠井潔『吸血鬼と精神分析』
 70年代という時代状況とサイコ・スリラーのトーンが合うこと。人文的環境のターニング・ポイントだった時代と場所に、歴史的古層からの悪意が蘇る。


メルカトルかく語りき (講談社ノベルス)

メルカトルかく語りき (講談社ノベルス)



第5位:麻耶雄嵩『メルカトルかく語りき』
 あれ。皆々様、この本の読み方間違えてません? 基本的には、探偵が魯鈍者をからかうお話ですよ。アンチミステリ的目論見がメインだったら、“事件”を構成する諸データを絶対視するスタンスは取らんと思います。ってことは、冒頭のお話を読めばわかる、はず。