ブランコ・ミラノヴィッチ『不平等について―― 経済学と統計が語る26の話』(みすず書房)レビュー

不平等について―― 経済学と統計が語る26の話

不平等について―― 経済学と統計が語る26の話



世界の「不平等」を考察するのに、著者は三つのパースペクティブを設けた。「国家内の個人の不平等」「世界の国家間の不平等」「世界の市民の不平等」――著者の主張は明快である。即ち、個人の所得水準を決定するのは、どの国で生まれたか、「国籍こそが生涯所得を決定する」。不平等研究のベースとなる家計調査は、利用可能なものが出始めるのは、先進国でさえ第二次大戦後のことで、過去に遡及して不平等分析を行うには、限界がある。が、現在的な不平等拡大のダイナミクスは、新古典派的なグローバリゼーション観、世界各国の所得が収束するというオプティミズムをせせら笑う。それは即ち、資本は豊かな国から貧しい国へあまり行かず、豊かな国を循環し続けている、ということである。必然のこととして、貧しい国から豊かな国へ移民圧力が増すことになる。マルクスの世界の労働者連帯の夢想は潰え、ロールズの一国「正義論」の倫理的価値は暴落するだろう。また、国家間の不平等から、アジアで政治的共同体が成立するのは難しい。最新の不平等研究の成果が分かる経済エッセー集。