水生大海『熱望』(文藝春秋)レビュー

熱望

熱望



 人生の転落譚という感じがしないのは、作者の鋭利な視点が、人間の欲得の交錯を剔抉しているからで、つまりは、(反)教養小説という枠組みを外しているからだ。だから、主人公が「幸せ」を「熱望」しているという、そのベクトルの先は、ビルドゥングスロマン的な範型そのものがある、といった印象が強い。金、貨幣的欲望は、真の欲望を挫折させるのだ。