連城三紀彦『小さな異邦人』(文藝春秋)レビュー

小さな異邦人

小さな異邦人



 誘拐、交換殺人、変身、マニピュレート……ミステリーの概念装置を、まさに縦横無尽に展開させ、こちらの錆付いた意識認識の“外部”に、一編の小説を結実させる、この手練は、しかしまだ極まった感じがしないのだ。作者は他界しても、作者の切り開いた逆説と奸計と愛憎の小説空間は、いささかも閉じていない。が、まさしく、余人を以て代え難く、つまりは端的に、作者は“他者”になってしまった、ということである。作者は、日本のミステリー界においては、そのまま“空白”として、その存在感を増していくことだろう。今はまだ、ポスト連城三紀彦が模索されるべきではない。連城作品の徹底的な読み直しがなされるべきである――そう、脱構築が。