連城三紀彦『女王』 (講談社)レビュー

女王

女王



 作者の、90年代後半に雑誌連載された作品で、埋もれていた、というより、作者自身が納得せず未だ埋めていた、というのが実相だろう。完成度が低いというより、“幻想”を基底としたギミックの構築を、より高次なものに仕上げたかったのではないか、と忖度する。個人の“記憶”の断層が、“歴史”の紅焔と深闇の交錯を、そのまま体現してしまうという構図は、“物語”それ自体が孕む逆説性を露わにして、作者の尖鋭化した意識を、自己剔抉するためのものでもあった、ともいえなくないと思うのだ。この後、『白光』『人間動物園』などの傑作を物したのは、作者がこの作品を経て、あらたなフェーズに入ったことを示しているのではないか。