米澤穂信『満願』(新潮社)レビュー

本日のエピグラフ

 「何か目隠しになるものは」/(…)/「いえ、これで目をつむっていただきましょう」/と言って、遠い棚の達磨に後ろを向かせた。(「満願」pp.310−311) 

満願

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 作者の同じ版元から出た前短編集『儚い羊たちの祝宴』と比べてみれば一目瞭然だが、『儚い―』が作者の領域で拵えた印象があるのに対して、本短編集は作者が新たな小説空間を構築し得たことが感得できる一冊。社会性の導入は、呼び水的役割で、語り=騙り口のしなやかさが、小説の安定感に直結していて、心地よい。作者に風格が出てきた。