小路幸也『東京バンドワゴン』(集英社)レビュー

東京バンドワゴン (1)

東京バンドワゴン (1)



ミステリアス7 
クロバット6 
サスペンス6 
アレゴリカル7 
インプレッション8 
トータル34  


 北村エコールもしくは北村チルドレンとでもいうべき、いわゆる“日常の謎”派の作品を規定するのは、たとえば円紫シリーズにしても駒子シリーズにしても、成長小説的側面、もっというならば「教養小説」のエレメントが、その物語空間の内実を担保しているのは疑いないところだろう。これは明らかに北村薫の戦略性の賜物だけれども、この路線はいったん暗礁に乗り上げた感がある。「セカイ系」のある種のカタストロフィと背中合わせになった自己充足感に、素朴なビルドゥングスロマンが影響を与える余地はない。――それでは、“日常の謎”派はこれからどういう戦略をとりうるか。ひとつは、光原百合が『最後の願い』で示したこと、即ち“自己形成”の対象を“個人”という一人格から、ある種の<共同体>=関係性へ、その生成を焦点とする方向性。そしてもうひとつは、<共同体>=関係性の循環を謎解きの背景に置くことだ。…………作者が巻末の献辞で露骨に示しているように、物語の範型はあまりにもあからさまである。加えて、三人称一視点の“神”語りのうさんくささを、幽霊の一人称に余すところなく変換して、かつこの幽霊のキャラクター設定はいうまでもなく、作者の<共同体>=関係性への回帰の意思は鮮明にして周到である。昨年の坂木司『切れない糸』も、クリーニング屋を引き継ぐことになった青年の成長小説ではあるが、基本的には同傾向の作品だろう。――この傾向は、いわゆるコージーミステリとは一線を画するとおもわれるが、社会意識的には、アンチ・ネオリベの趨勢を反映しているといっていいだろう。