大山誠一郎『仮面幻双曲』(小学館)レビュー

本日のエピグラフ

 死体を物扱いしてやがる。こいつもアプレゲールってやつか。(P137より)

仮面幻双曲 (小学館ミステリー21)

仮面幻双曲 (小学館ミステリー21)


 
ミステリアス9 
クロバット10 
サスペンス8 
アレゴリカル9 
インプレッション10 
トータル46  


 露骨なほど極端な舞台設定。“時代”の雰囲気を否応なく醸成させるクリシェの配置。普通小説的思わせぶりは微塵も見られない。要は、探偵小説的夾雑物を極力排しているという点で、作者の勝負作と見た。そして、十分に成果をあげたのではないか。――清冽なデビュー作『アルファベット・パズラーズ』や、その他の短編などをみるに、探偵小説的“逆説”を扱う手付きに、連城三紀彦と通底するものを感じてしまう。本作にしても、“双子”をめぐるねじれた計略は、完全犯罪の達成を目論むというよりは、詭計そのものに淫する昏いパトスを感じ入ってしまうのだ。価値観を転倒させることがトリックの合理性を担保するのではあるけれど、そのトリックを“必然”と感得されるまでに高めるためには、今度はこの“合理性”を賭金にしなければならないのだ。