山田正紀『カオスコープ』(東京創元社)レビュー

本日のエピグラフ

 壊れたぼくが、壊れた世界を、壊れた万華鏡のなかに覗き込んで。(P293より)

カオスコープ (創元クライム・クラブ)

カオスコープ (創元クライム・クラブ)


 
ミステリアス9 
クロバット9 
サスペンス9 
アレゴリカル9 
インプレッション8 
トータル44  


 有栖川有栖『乱鴉の島』に続いて、またしてもNevermore――“記憶”をめぐる、追跡と錯乱の物語。“記憶”は(複数の)他者の“記憶”と縒り合わされることによって、客観的な“像”を結び、ひいては<世界>を現前させる。しかし、“記憶”そのものを客体化せんとする意思が、“死者”の“死”を遅延させる結果となる、そのヴィジョンが刺激的。すべてを終わらせる「Nevermore」というキーワードは、実は他者のものなのだった。これぞ、最後の生‐権力のかたちであり、このむこう側にゾーニング型権力が待ち構えているのだろう。