いしいしんじ『みずうみ』(河出書房新社)レビュー

みずうみ

みずうみ



 
 水、というもはや文学的ガジェットと化した感のある表象から、作者は流動的なイメージを汲み出し、そこからディアスポラ的テーマへと接近する。第三章で、その真意が、救済と鎮魂にあることを読者は知ることになるけれども、擬音を媒介に慎重にイメージを重ねていく筆致が、新鮮さを覚えさせなかったのが、三島賞の敗因か。安易な癒し系を拒絶してはいると思うのだけれど。