盛山和夫『年金問題の正しい考え方』(中公新書)レビュー



 
年金問題、とくれば岩瀬達哉がこの国の年金役人たちのモラル・ハザードをバクロしたのが最もインパクトがあったけれども、ことに年金制度の将来設計の議論となると、経済学・財政学的知見の枝葉末節がある種のエクスキューズに見えてきて、どうにも浮かない気分になる。本書は、その点でクリア・カットに論じたものとして、好感がもてる。年金制度の設計基準について、同世代内では同一拠出と同一給付が対応して、異世代間には相対的年金水準を一定にするなどの大原則を設けて、年金財政については、「一元化」を実施するにあたり、保険料納付の「期間」に応じて基礎年金が、「拠出」額に応じて拠出比例年金が支給されるシステムに移行して、その際に基礎年金部分に「税支援」を行う「税方式」ならぬ「税支援方式」を提唱する。完全消費税化よりも、「拠出‐受給対応の原則」を貫徹して、「福祉国家」の社会的連帯性、というか、それを支える国民レベルの規律を重視したものと言えなくもない。*1「一九七三年スキームの問題」として、この国の年金制度のネズミ講的性格を指摘して(このあたりは、岩瀬の著作と併読したい)、これがいわゆる「世代間格差」に繋がったことを露わにしたほか、年金の積立方式、そして「民営化」にも適切な批判を加える。年金をネズミ役人どもが食い散らかしたからといって、今度は金融屋たちにつかませて、それで“正義”が実現されるわけがない。

*1:批判の俎上に橘木俊詔の論文が載せられているけれども、やや空転しているかも。著者の言うとおりに、「完全消費税化」を実施しても、ことに世代間対立やそれによるモラル・ハザードなどは、老後の生活の具体的保障の“像”が如何に示されるかで、かなり違ってくるのではないか。橘木の再反論を俟ちたい。