探偵小説研究会・編著『ニアミステリのすすめ』(原書房)レビュー


 
 これとはまた別に、『CRITICA』は出るんですね。…………前に、「ミステリ批評においてある種の正念場を迎える年になりそうな気がする」と書いたことがあったけれども、昨年の小森健太朗に続いて、今年は円堂都司昭の批評集が出たし、そのほかにもいろいろと刊行されているみたい。同じエントリーで、「知的負荷に、耐えられなくなった」云々とも書いたけれども、いうまでもなく、知識量の多寡を問題にしているわけではなく(そんなのオレにもない)、ある作品を論じるにあたって、己に欠落しているある特定の“知識”が必要だと予感される場合、それをしっかりと認識した上で別の批評的理路を探るか、オレにはワカンナーイ、ワカンナイものは許せなーいと臆面もなく“一読者”のフリをするのか、どちらが生産的なのか、という問題である。今年の本格ミステリ大賞日本推理作家協会賞の選評群は、この意識の差異を探る絶好のサンプルだ。そして、またいうまでもなく、どのテクストが後世に残るのかは、文学賞選考会やベストテンの集計や民主主義的投票の結果で決まるのではなく、当該テクストに対して、どれだけ生産的な批評が紡がれるか、ということにかかっている。…………ということで、本書。インターテクスチュアルな意識を、意識的に(再)生産するのは、批評の本道。生産的なパフォーマンスのスリルさを味わえる二十五編。ワタクシ的には、円堂、田中、小森、並木、末國論文がツボでした。