佐野洋『ミステリーとの半世紀』(小学館)レビュー

ミステリーとの半世紀

ミステリーとの半世紀



 『推理日記』と重複しているところもあるけれども、昭和三十年代から五十年代にかけての、戦後日本ミステリ文壇の状況を回顧する。一番興味深いのは、日本探偵作家クラブから現日本推理作家協会へと改組する周辺の話と、やはり大乱歩との親交に関するところか。三好徹の巻き込まれた盗用問題、高木・清張の間の論争をめぐるいざこざなど、貴重なエピソードに事欠かないが、都筑道夫との「名探偵論争」を以て、実質的に通史的回想が途切れているのは、現在の日本ミステリに対する著者のポジションを物語っているのだろう。あえていえば、「他殺クラブ」と「幻影城」ムーブメントの間の決定的差異、ということになるけれども、生島治郎を称賛するのに「嫉妬」というコトバを使ったくだりで、「私が作品評において、この言葉を使ったのは、このほか一回だけである」とあり、それが横山秀夫の清張賞受賞作だったと明かしたのには、著者の自身の創作観に対する自負が裏返しににじみ出ていると思う。