米澤穂信『秋期限定栗きんとん事件 上・下』(創元推理文庫)レビュー

本日のエピグラフ

 「甘い衣の上に衣をまとって、何枚も重ね着していって。そうしていくうちにね、栗そのものも、いつかキャンディーみたいに甘くなってしまう。(…)上辺が本性にすり替わる。手段はいつか目的になる。(…)」(上 P170より)

秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)

秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)

秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)

秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)


 
ミステリアス
クロバット
サスペンス
アレゴリカル10
インプレッション10
トータル47


 まずは、単純に小説を読む愉しさを味わわせてくれたことに。小鳩くんパートの語り口のシュールさは、誰にも真似できぬ域にあります。本筋に小ネタを二三放り込む構成だけれども、すべてに物語的必然性がある。“自意識”をめぐる悲喜劇を主題にして、青春小説と探偵小説を接合したこの「小市民」シリーズ、たんなる青春ミステリとしてくくれないのは、実感として、青春小説としか呼びようがないし、反面、探偵小説としか呼びようもない、そんな奇妙な二重性があるからで、現在的な寓話として屹立しているためだろう。