北森鴻ミステリ私的ベスト5



 北森さんは、90年代半ばからの日本ミステリのトレンドを引き受けて、そのうえでご自身の小説家としての資質の趣くところに、“物語”の素材を求めていらしたように、一読者としては感じます。近年は、ますます小説家として独自の世界を追求しようとする姿勢が鮮明になって、頼もしかった。改めてご冥福をお祈りいたします。


狂乱廿四孝 (角川文庫)

狂乱廿四孝 (角川文庫)



『狂乱廿四孝』
 デビュー作には、きっちりと作者の特質が一編の小説として結晶している。この作品を、一から文献資料を読み漁って書き上げたというのは、小説家としての力量を示して余りあるエピソードだ。


狐罠 (講談社文庫)

狐罠 (講談社文庫)



『狐罠』
 実質的な出世作。宇佐見陶子は現在の日本ミステリのなかでも、傑出したキャラクターだろう。本作は、骨董品業界を舞台にしたコンゲーム小説というだけでなく、他のネタもふんだんに盛りこまれて、作家的膂力を見せ付けた。


凶笑面 蓮丈那智フィールドファイル? (新潮文庫)

凶笑面 蓮丈那智フィールドファイル? (新潮文庫)



『凶笑面―蓮丈那智フィールドファイル〈1〉』
 冬狐堂と双璧をなす蓮丈那智シリーズは、すべて玉揃い。冗長になりがちな伝奇ミステリを、ソリッドな短編に纏め上げる手腕には、ただただ感嘆するしかない。ワトソン役の気の毒さにも、ちゃあんと留意されているものね。


共犯マジック (徳間文庫)

共犯マジック (徳間文庫)



『共犯マジック』
 作者が試みた連作短編形式の長編もののなかでは、一番いいと思う。掲げたハードルの高さと、ケレンもしくはハッタリのかませ具合。というか、作者の、こんなこと思いついちゃった感が、“物語”を駆動させる因子となっていて、スリリングに愉しく読める。


深淵のガランス (文春文庫)

深淵のガランス (文春文庫)



『深淵のガランス』
 近年の新シリーズ。絵画修復師にして花師という設定に、作者の意気込みが感じられる。ハードボイルド的な傾斜は、先行するシリーズとの差異を設けるためだろうけれども、探偵小説的プロットの動的展開を目論んだものでもあるのだろう。こちらも名品ぞろいだ。