笠井潔『吸血鬼と精神分析』(光文社)レビュー

本日のエピグラフ

 脱血死した屍体には相反する二重の意味がある。血が失われた肉、、、、、、、に焦点を当てるなら父なる唯一神に通じる意味が浮かんでくる、肉から失われた血、、、、、、、、を問題にすれば吸血鬼ヴァンピールの存在が。(p.289)

吸血鬼と精神分析

吸血鬼と精神分析



ミステリアス
クロバット
サスペンス10
アレゴリカル10
インプレッション
トータル46


 矢吹駆ものとしては8年ぶり、日本編『青銅の悲劇 瀕死の王』から早3年。今回は精神分析テーマ、サイコ・サスペンス基調で、ラカンクリステヴァの思想の批判的アプローチを目論む。精神分析唯一神=嫌忌宗教、吸血鬼=多神教=供犠宗教にアナロジャイズされるが、生命における“血”の、“肉”にたいしての優位性を示威する力学が、多重人格的な戦略を採ることを示唆し、それが崇高性と喪失感の両義性を滲ませる必然を、作者は穿っている。