笠井潔『青銅の悲劇 瀕死の王』(講談社)レビュー

本日のエピグラフ

 「一九七〇年代以降の伝奇小説は、天皇を最大の適役に祭りあげることで物語的な力を得てきた。(…)だから天皇の病状が気になるんだ」(P233より)

青銅の悲劇  瀕死の王

青銅の悲劇 瀕死の王


 
ミステリアス
クロバット10
サスペンス
アレゴリカル
インプレッション10
トータル45


 80年代後半の「<戯れ>という制度」の王国と化した日本での、作者の鬱屈がストレートにでているところが面白い。件の論争後の本格的な“本格”ものということで、否が応でも注目されるが、重責は果たしたというべきだろう。しかし、矢吹駆的「本質直観」を、作者は特権的玉座からの遠近法のごとく(自己)言及しているようだ。それでは、これからのカケルは、瀕死の王のように見立てられるのか。90年代の二大事件、大震災と宗教テロにどうアプローチするかとともに、次作が楽しみ。