山田正紀『ファイナル・オペラ』(早川書房)レビュー

ファイナル・オペラ (ミステリ・ワールド)

ファイナル・オペラ (ミステリ・ワールド)



 オペラ三部作の完結編。日本のウルトラ・ナショナリズムを“探偵小説”で批判する壮大な試み、ゆえにアンチ・ミステリではない――作者は意図的に境界線を踏み越えているけれども。本作のモチーフである輪廻転生は、前二作にも通奏低音としてあるが、『ミステリ』では並行世界、『マヂック』ではドッペルゲンガーとして展開された“主体”の非同一性の行先は、本作で変身という主題性に凝集され、以て“正史”を超える“稗史”の歴史性を、転生的リアリティによって担保させた。作者の反逆の美意識は、安価なヒューマニズムをも、たぶん相対化するものだろう――戦争の悲惨を謳っても、もはや添え物でしかない。物語のラストシーンは、それでも国家暴力という普遍悪を描かなければ、つりあいがとれないと判断したか。