柳広司『楽園の蝶』(講談社)レビュー

楽園の蝶

楽園の蝶



 満州満映を舞台に張り巡らされる陰謀を描いているわりには、恬淡とした印象を抱かせる。作者であれば、もっと時代の空気を濃密に醸し出させることは可能だったように思うが、全体としてみれば、「満州」に関する過度なイメージ構築を避けているように感じられるけれども、作者の主眼は、政治と文化の虚構性と欺瞞性、そこから立ち昇ってくる何ものかを、定位させることにあるのではないか。