2014年上半期本格ミステリベスト5

 2014年上半期(2013年11月〜2014年4月)のまとめだけれども、今年に入ってから読書の比重を変えて、ミステリーのウェイトを半減させたのだった。それで翻訳ものの数を増やしたので、日本ミステリの読書量は激減している。が、それでもベスト5を組めるだけの収穫はワタクシ的にはあったので、今年の上半期はかなり豊作だった、のだろう。読んでも、取り上げる気力の無かったものは多々あったが、まあ。


小さな異邦人

小さな異邦人



第1位:連城三紀彦『小さな異邦人』
 連城にしろ、泡坂妻夫にしろ栗本薫にしろ、幻影城出身の作家は、他界して、後進の者たちに何か大きな宿題を遺した気がする。彼らは、探偵小説のパースペクティブに内在しながらも、常にそれとの差異を生産し続けてきた。彼らが、探偵小説の外部を作品に形象させるとき、私たちは“不気味なもの”としての探偵小説のジャンル性を意識せざるを得なくなる。果たして、このジャンルは、“小説”の基底性として振る舞うことができるのだろうか。本書の作者の“他者”化、推理文壇の空白としての存在感が増すにつれて、この問いは、のっぴきならないものとして迫ってくるはずだ。
 


殺意の構図 探偵の依頼人

殺意の構図 探偵の依頼人



第1位:深木章子『殺意の構図  探偵の依頼人』
 威風堂々。ギミックの重層性が、小説の膂力になっているようなのは、めったにお目にかかれませんですよ。人間の暗部を表象させるのに、ギミック構築は、どれだけ“現実”に迫れるだろう。
 


満願

満願



第3位:米澤穂信『満願』
 おめでとうございます。作者のジャンピングボードになるだろうが、長編でもこういうのがほしい、と思えど、まだ終わってないシリーズを決着つけるんだろうと思うと、ちょっと寂しいねえ。
 


追憶の夜想曲

追憶の夜想曲



第4位:中山七里『追憶の夜想曲』
 持ちネタが多い人は、かえって洗練されていない印象を受けやすいが、せっかく巧緻なプロットを構築できる力はあるのだから、小説の彫琢性とでもいったものも望みたいところ。本作は、作者が新たな段階へと踏み出しつつあるように思える。


黒翼鳥: NCIS特別捜査官

黒翼鳥: NCIS特別捜査官



第4位:月原渉『黒翼鳥  NCIS特別捜査官』
 このシリーズが、探偵小説の新境地を目指していると思われるのは、題材のせいではない。“政治的なもの”と“社会的なもの”の混乱を見据えたギミックの構築性が、アンチミステリへの射程があるからだ。


暗い越流

暗い越流



第4位:若竹七海『暗い越流』
 今年の推協賞の短編部門は流れたが、余計に本短編集に持ち重りが感ぜられることになるのかも。本集で扱われた“事件”は、こまっしゃくれた文学的アプローチからは、到底その本質的な不気味さは炙り出せることは能わないだろう。