細見和之『フランクフルト学派 -ホルクハイマー、アドルノから21世紀の「批判理論」へ 』 (中公新書) レビュー



 思ってみれば、「フランクフルト学派」の入門書っていうのが、たとえば岩波新書から出てないんですよね。保守系中公新書から、しかも本筋のアドルノの研究家が書いたものが上梓されるとは、一体どうしたことか。いずれにせよ、一般シロウトにも、この思想水脈が理解できる本が出たのは、喜ばしい。フランクフルターといえば、反ユダヤ主義的なるものとの対峙が、やはりコアの部分にあるので、ヨーロッパもしくはドイツの知と野蛮のモルフォロギーを、概観するということでもあるのだ。第一世代のアドルノは、ナチスの迫害を受けたが、戦後学生運動の高揚感にも呑まれてしまう。第二世代のハーバーマスは、左右問わず、異質なものに対する排除の力学に対する批判の精神性を受け継ぎ、一連のコミュニケーション理論を構築、発展させた。第三世代のホネットの「承認論的転回」は、排除の力学批判のパースペクティブをまた引き継いだものとしても理解できるだろう。いずれにせよ、知と野蛮をめぐるモルフォロギーを見通す視座を提供してくれるのに有用である、というポジションを、まだこの学統は、当面の間維持することだろう。