2006年下半期本格ミステリベスト5

 例によって読み残しが多々あるのですが、時期的にここらで仕切るのが適当と思われ、慙愧の念に耐えつつも、2006ミステリ年度下半期(2006年5月〜10月)の私的ベスト5をば開陳する次第でございます。

凶鳥の如き忌むもの (講談社ノベルス)

凶鳥の如き忌むもの (講談社ノベルス)



第1位:『凶鳥の如き忌むもの』三津田信三
 ワタクシ的には、2006年は三津田信三イヤーでありました。京極夏彦が捨象した領域を見据えて、堅固たる物語空間を構築している。要は、<本格>の精神史を引き継がんとする意志があるということだ。今度の本ミス大賞は、『厭魅の如き憑くもの』と『乱鴉の島』の一騎打ちと見た。*1
文章探偵 (ハヤカワ・ミステリワールド)

文章探偵 (ハヤカワ・ミステリワールド)



第2位:『文章探偵』草上仁
 <作者>は「作者の死」を生きる以上、テクスト上にその“痕跡”を残さざるをえないわけで、それを逆手にとって、<作者>という生ける屍と倒錯のロンドを演じたというお話だけれども、いずれにせよ今年のコストパフォーマンス賞ではないか。もっと読みましょうよ。“灰”になっちゃうには、あまりにも惜しい作品ですよ。
乱鴉の島

乱鴉の島



第3位:『乱鴉の島』有栖川有栖
 おめでとうございます。“テクノロジー”の現在的問題性を絡ませながら、作者の美質をストレートに表出したという意味で、幸福な作品だろう。現在の<本格>の到達している思想性を、スマートに纏め上げた。無論、作者にはこの地点で安住してほしくない。
仮面幻双曲 (小学館ミステリー21)

仮面幻双曲 (小学館ミステリー21)



第4位:『仮面幻双曲』大山誠一郎
 “逆説”の論理に淫するということ、議論が諸々あるのはむべなるかなと思えど、<本格>でしかあり得ない“論理”による物語性の追求を、さらに望みたい。
伯林蝋人形館

伯林蝋人形館



第5位:『伯林蝋人形館』皆川博子
 登場人物のひとりが名前を同じくしているように、作者はあきらかにアドルノの問題意識をテーマの一部に取り入れている。資本主義がもたらす<文化>の爛熟。「野蛮」へと帰結する“革命”前夜の狂熱。物‐語に亀裂をいれることで、<文明>の暴力性をトレースしながら、その聖性を脱構築する。

*1:07/2/7追記。第7回本ミス大賞候補作はっぴょー。…………今回はあんまり興味、ないな。評論・研究部門はこれしかないものとして、小説部門のほうは、なんというか、ある特定のひとびとにはカタルシスを覚えるようなラインナップであることだけは、よおく分かる、ような。