深谷忠記『毒 poison』(徳間書店)レビュー

本日のエピグラフ

 まさに“毒人間”ともいうべき彼らは、ただただ他人を傷つけ、痛めつけるために、自身の邪悪な脳が生み出した毒をつかう。(P385より)

毒 poison

毒 poison


 
ミステリアス8 
クロバット9 
サスペンス8 
アレゴリカル7 
インプレッション8 
トータル40  


 相変わらず、ネタ割りが優れていて、最後まで緊張感が持続する。たい焼きのしっぽまで餡が詰まっていると思わせる、数少ない人だけれども、最近の作者は誰かと作風が近似しているなー、と思いいたったのは、歌野晶午。いや、歌野晶午が、松本清張に近づいているのかな。でも清張は、『女王様と私』みたいなのは書かないし。…………ここでは、「毒」というのが潜在する暴力の隠喩として機能するが、また「毒」というのは非力な者が行使する暴力の象徴でもある。家父長制的な私的領域で応酬される「毒」の奸計、保険金をめぐるくだりでは思わずゾーッと。――だから、ラストシーンは、物語的な必然性がある。