佐藤亜紀『ミノタウロス』(講談社)レビュー

ミノタウロス

ミノタウロス


 
 『バトル・ロワイアル』のヒット以降、小説・漫画を問わず、不条理というか無意味な“殺しあい”を描いて、それに成長小説的色合いをほどこすということを、作家とそして評論家は(もちろん編集者も)結託してやってきたわけです。これに対するアンチテーゼが、たとえば筒井康隆の『銀齢の果て』であったと思う。――人を殺しておいて、“成長”なんてできるわけがねーだろーがさあ。でもよぉ、まわりの“人間”どもがみんな“人殺し”だったら、“人殺し”になるほかはない、お前がもしも“人間”でいたいなら――“人間”のようなもの、と自己規定するのも、否、そういう能力がある時点で、まだ“人間”であるけれども、それらをめぐるすべての意味性が剥落した瞬間に、彼は単なる“彼”となる。ここが終点だ、絶対的な。…………作者は某誌のインタビューで、『戦争の法』が真に理解されるまで十年かかったけれども、本作に関してはそういうタイムラグがなかった、というようなことを言っていた。<戦争>というものをめぐる語り口が、かくも流麗かつ犀利なものであることに戸惑うのも一瞬、ソリッドな小説世界にひたすらのめり込む。