石持浅海『人柱はミイラと出会う』(新潮社)レビュー

本日のエピグラフ

 アメリカ出身のリリーさんには理解しづらいと思いますが、日本人は『いないことになっている』ものは目に入らないのです。網膜には映っていても、脳が認知しない。(「黒衣は議場から消える」P57より)

人柱はミイラと出会う

人柱はミイラと出会う


 
ミステリアス9 
クロバット10 
サスペンス7 
アレゴリカル9 
インプレッション10 
トータル45  


 作者の会心作。パラレルワールドテーマにあらまほしきナンセンスを、しれっとしたふうに散りばめながら、緻密なロジックとプロットで、読者を唸らす。日本的スノビズムを局所肥大化した設定から、エコノミーの論理を取り出した「人柱はミイラと出会う」「黒衣は議場から消える」は、連作中のプロトタイプ的な位置づけで、「お歯黒は独身に似合わない」はホワイダニットというところから都筑道夫への、「厄年は怪我に注意」は“ありえない論理”を扱っているところから泡坂妻夫へのオマージュという意味合いもあるのだろうが、とりわけ「厄年は怪我に注意」は、“ありえない論理”性が異世界論理と二重写しされて、なんともシュールな味わい。この文脈でいけば、「参勤交代は知事の務め」は西澤保彦の諸作を想起させ、「鷹は大空に舞う」は――西村寿行かなあ。でもでも、個人的な一番のツボは、「ミョウガは心に効くクスリ」で、チェスタトンというよりかは、内田樹的逆説が炸裂する快作です。連作のシメは、意表をつかれましたが、思えばこれしかあり得ないのでした。