伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』(新潮社)レビュー

ゴールデンスランバー

ゴールデンスランバー



 
作者のビブリオグラフィーの中でも、最もサスペンスフル。なのに、いつもの文章技巧、レトリシズムの冴えは相変わらず、というところに一番感心した。この作品が、作者の到達点だと思うのは、この物語自体が、巨大なアイロニーを構成しているということ――陰謀論的不安と監視社会的ディストピアの“空気”を丹念に醸成させながら、大文字の“物語”への“欲望”に、私たちは抗うことができるのか、逃亡者の孤独な戦いをつぶさに見ながら、<メディア>のこちら側にいるのかあちら側にいるのか、作者は私たちに問うているのだ。それは、とりもなおさず、<メディア>がある種の紐帯を切断する装置であることを、あからさまにしているのである。