本田由紀『「家庭教育」の隘路』(勁草書房)レビュー

「家庭教育」の隘路―子育てに強迫される母親たち

「家庭教育」の隘路―子育てに強迫される母親たち


 
 すでに各紙誌で取り上げられているが、さまざまな母親たちへのインタビューが載っているということで、改めて注視したい。母親たちが現代社会で葛藤するその原因は、「子供の将来の客観的な地位達成については「きっちり」した子育てが、そして主観的な地位達成については「のびのび」した子育てが、それぞれ長期的な影響を発揮しているという事実」があり、このどちらかの「子育て」に偏ると、「子供の将来の何かを損なうかもしれない」。これらのバランスをとることの困難にくわえ、「社会状況や雇用情勢の変化が大きいため、子供の将来が不透明」である時代状況が、「子育て」における不安と葛藤に拍車をかける。著者の問題意識は、母親たちを取り巻く環境の劣悪さもさることながら、社会的階層の再生産ということに焦点が合わせられているが、母親たちのパーソナリティによって、子供の教育環境にバイアスがかけられてしまう度合が強くなってきているのも、客観的に見て悪しき傾向だろう。教育環境を、いってみれば「親密な」領域から「社会的な」領域の問題として再構成して「社会的な」施策を打つという意味で、著者の政策提案を基本的に支持したい。とりわけ、「習い事バウチャー券」の配布というのは、教育格差を縮めるのと同時に、教育の多様性をも確保できる良いアイデアだと思う。ていうか、前から同じことを考えていました(笑)。