松尾匡『「はだかの王様」の経済学』(東洋経済新報社)レビュー

「はだかの王様」の経済学

「はだかの王様」の経済学



 マル経のキモ、「疎外」論集中講義。この世における深刻な社会問題は、「疎外」論で説明できる。「依存関係+ばらばら=疎外」すなわち、社会的依存関係にある個々人同士が、たがいにニーズについて情報交流できないとき、「疎外」的状況が出来する、と。――某有名翻訳家から有名エコノミストたちを巻き込んで、なんだかお祭り騒ぎになっているみたいだけれども、わたしゃあんまり高尚な議論はわからないのですが、ご本人が、スターリニズムを「疎外」の例に挙げているということ、今日の情報通信技術の発達でニーズの経済の展望が拓けつつあるということ、目の前のチマチマしたことをことをこなして「革命」は百年二百年後に先延ばし、ということを言われているのですから、そういうことを前提にしないと、なんというんですか、あまり議論が楽しくならないような気がするんですが。って、余計なことなんでしょうが。稲葉振一郎これこの議論が、一番クールなものでしょうね。*1

*1:労働者にカネがまわってこないのは、企業の内部留保の著しい増大による。設備投資というよりかは、買収対策なんだけれども、この賃金デフレによる消費不況の克服の、そのふたつの極端なケースは、ひとつは護送船団に舞い戻ること、いまひとつは消費者に借金させて消費を活性化させること、である。言うまでもなく、前者は旧日本型、後者はアメリカ型。財政政策ってのは、両者の中間あたりにあるのかしらん。松尾の提唱する最低賃金引き上げ+金融緩和は、第三の道になりうるか。