宮台真司『日本の難点』(幻冬舎新書)レビュー

日本の難点 (幻冬舎新書)

日本の難点 (幻冬舎新書)


 
 “社会”がそのリアリティとして、「デタラメ」=恣意性に覆われてしまった、「社会の底が抜けてしまった」時代の処方箋。第一章のメディア論から第四章の米国論までは、実は大きく原理論、第五章の日本論が実践論、なのだろうな。議論の大きな枠組みは、<システム>による<生活世界>の侵食、そして「再帰性への気付き」のあとの社会の全領域にわたるポストモダン化という事態に、必然的に出来する「正統性の危機=批判の危機」に、どう対抗するか、ということで、著者はイギリスの社会改革の流れ、元祖「新自由主義」即ち「小さな政府」と「大きな社会」のカップリングを支持する。元来「福祉国家」は、“社会”がそれまで担っていた「包摂」のメカニズムを、行政機能として収奪してしまった。“社会”の空洞化の遠因だが、「社会から「大きな国家」に移転されてしまった便宜供与のメカニズムを、社会に差し戻す必要があります」。このような「大きな社会」による社会的包摂の(再-)実現にむけて、社会システム理論の諸成果の有用が期待される、というわけである。著者が誇示するように、高密度な議論がクリアかつコンパクトにまとまっているので、素人でも十分に“現在”という位相を俯瞰できる。個々に異論はあるけれど(特に後期高齢者医療制度について)。鈴木謙介『<反転>するグローバリゼーション』も、併読されたし。