岩村充『貨幣の経済学』(集英社)レビュー

貨幣の経済学 インフレ、デフレ、そして貨幣の未来

貨幣の経済学 インフレ、デフレ、そして貨幣の未来


 
 バーナンキさんが念願の(?)ゼロ金利政策に踏み出し、インフレ数値目標こそまだ明確に宣言していないみたいだけれども、そこらへんは、たぶん、アメリカ経済が財政刺激によって、不動産価格の下落が止まって中間層以下の消費活動がある程度活発になったら、ということだと思いますけれども、マネージャブジャブな現在に、あらためてお金の歴史とその将来的な展望を、丁寧に説いた本書を。とても読みやすいけれども、貨幣の歴史をひもといた第一章は実感がわかないぶん、ちょっとくじけてしまうかもしれないので、貨幣の現在から話をすすめる第二章から読んだほうがいいかも。金本位制から離脱したあと、「貨幣価値」のアンカー、実質的な裏付けとなったのは、「国債」だった、つまり、財政赤字を抱えながらも財政規律を遵守する政府の意思行動にある。ブレトンウッズ体制崩壊後、「アメリカを含めて多くの西側諸国が大きな財政赤字国債とを抱え、中央銀行のバランスシートから国債を除外しようにもできない状況にあったこと」を、著者は「偶然あるいは幸運」だったという。*1流動性トラップ下でのインフレターゲットについては、著者は否定的で、なんとなれば、金融政策というのは物価水準に対するインフレ・デフレ圧力を「時間軸上で分散し先送りする」もの、即ち、今インフレにすれば将来デフレ圧力がかかり、今デフレにすれば将来インフレ圧力がかかる、つまりデフレ克服のためのインタゲは、逆にデフレをひどくする――というわけだけれども、この著者見解に対して、リフレ派は完全雇用を念頭に置いて議論している、と批判するだろう。*2著者は、電子マネーの未来に流動性トラップの克服(マイナス金利)の可能性を見るが、ともあれ、素人でも抵抗なく読める好著。

*1:「貨幣価値」のアンカーとして、国債が必然だった、というのではなく、あくまでアンカーそれ自体の必要性を著者は言っている。「貨幣価値」が無際限に伸縮しなければ、その裏付けとなるものは株式や土地でもいい。

*2:でも、リフレのひとも、完全雇用を念頭に置いて議論しているんじゃないかって、思うときがあるんですが。