田中慎弥『神様のいない日本シリーズ』(文藝春秋)レビュー

神様のいない日本シリーズ

神様のいない日本シリーズ



 「図書準備室」と同様、モノローグとしての“語り”をフィーチャーしたもの。聞かせる相手に逃げられた前作とは違い、本作はそれをドアの向こう側へ押し込めているが、いずれにせよ、独白者の来歴というのが、作者の主題のひとつなのだろう。「図書準備室」では<他者>の場所が毀損されている、と以前に評したが、本作には、タイトルの示すとおり、<他者>の不在、というモチーフがある。このとき“歴史”は、アモルファスな事象にならざるを得ない。時間軸と、それに添ったイベントが、かろうじて“歴史”というものに錘鉛の役割を果たす。父から子へ、独白される“歴史”において、<他者>の場所は恢復するか。――作者のひとまずの到達点といえるのではないか。