内田樹『街場のメディア論』 (光文社新書)レビュー

街場のメディア論 (光文社新書)

街場のメディア論 (光文社新書)



 内田樹の本は、どれも難しいことを言っているのだけれども、それでもベストセラーになるのは、まだ日本の読書人(読者階級)に知的劣化が起こっていないということであろうし、というよりも、“知性”というものがもつ構造性、そのありかたを主題として展開される著者の言説に、日本の読者層のコアな部分が呼応しているのだろう。本書もまさしくそれで、終始一貫しているのは、知性の劣化がそのまま責任における倫理性の崩壊、ひいては社会の機能不全を出来させるという、現在におけるディストピアへの警鐘である。メディア言説における「正義」がそのまま「市場原理」と結託して、ニュースの発信者が言説の「定型」性に無自覚であるとき、メディアの暴走に歯止めが効かなくなる。後半の著作権制度批判も、「市場原理」が「読書人」層の拡大を阻み、出版文化の根幹を切り崩してしまうことに対する懸念からで、メディアの言説と制度、いわば内と外から、将来の展望を放棄するかのごとき振る舞いが、「メディア」の危機を加速させるのを、辛辣に指摘している。