加藤典洋『文学地図 大江と村上と二十年』(朝日選書)レビュー

文学地図 大江と村上と二十年 (朝日選書)

文学地図 大江と村上と二十年 (朝日選書)



 「バブル期の文学」「湾岸戦後期の思想と文学」「ゼロ年代の小説と批評」と、「ポスト昭和期」における三つの時代断層ごとに展開された“文芸時評”五十二本を完全収録し、さらに、「ゼロ年代」における著者の関心のありかを示す批評三本を併録する。私自身は、『アメリカの影』で、日本のアメリカ依存の精神史を暴露してしまったときから、即ち文壇登場当初から、著者が日本の文壇にとってマージナルな存在だったと思っているが(そしてそれは、『敗戦後論』で一気に可視化されることになる)、そんな彼が「ゼロ年代」の文芸状況にどう対峙しているか、それは『小説の未来』などで披瀝されているけれども、本著では、その立脚点が明快にされている。それは即ち、「関係の原的負荷」の露頭という問題と、そして、「大江と村上」の文壇状況論的対立の克服である。後者はコミットメントとデタッチメントの「二重の姿勢」、その維持という小説家としてのありかたを問うものだ。前者は言うまでもなく小説の主題性にかかわるものだが、そうすると、著者の切り取るこれからの日本文学のシーンは、一体どういうものになるか。