海老原嗣生『雇用の常識「本当に見えるウソ」』 (プレジデント社)

雇用の常識「本当に見えるウソ」

雇用の常識「本当に見えるウソ」



 文系、というより非理系であるワタクシめが、統計データの載っている本が苦手なのは、数字の羅列に目がくらむというより、当該データを論拠とする本文の説明に違和感を感じることが間々あって、まあワタクシめのオツムが悪いせいなんでしょうけれども、本書も二、三気になるところが…………ということもありますが、現在の雇用環境をめぐる「俗説」の数々を、各種データをならべて一刀両断にする本書は、冷静に雇用環境の実像を把握するためにも、有益であることは確か。派遣社員の増加は、請負事業会社の正社員が、派遣法改正により、付け替えられたため。大企業による大量の「派遣切り」現象の真相は、アメリカの金融危機後の大不況に乗じて行われた、派遣契約の「雇い止め」対策*1である。若者を先行世代が搾取しているように論じるのは、日本企業の給与賃金体系を無視し、また、若者の高学歴化と大卒者の正社員就職者数の増加をさらに無視した暴論。ワーキングプアの大部分が、就学労働者と主婦労働者である――格差問題に関しては、長期的なトレンドとして拡大方向にある、と明確に格差拡大否定論者を一蹴し、返す刀で逆に、格差拡大の戦犯として「小泉改革」を槍玉にあげる論者も批判するけれども、著者同様に、格差拡大論者たちはバブルの頃より格差は拡がり続けているときちんと主張しております。巻末の著者の提案には、一定の説得力があると思う。

*1:2006年3月から始まった、派遣社員の3年更新打ち止め規定の、節目だったのが2009年3月。3年以上継続して派遣契約更新した場合、契約終了が困難になり、ことに製造派遣は、3年以上継続して契約更新した場合、直接雇用義務が生じる。