三津田信三『水魑の如き沈むもの』(原書房)レビュー

本日のエピグラフ

 「連続殺人が起こって何人も殺された後で、ようやく事件を解決しておきながら、実は最初から犯人が分かってたとほざく名探偵より、正直に分からんと言うあんたの方が、よっぽど信用できるけ」/「ただ、分からないよりは、分かっている方が良いと思うのですが……」(P484より)

水魑の如き沈むもの (ミステリー・リーグ)

水魑の如き沈むもの (ミステリー・リーグ)


 
ミステリアス10
クロバット
サスペンス10
アレゴリカル
インプレッション10
トータル48


 シリーズ第一作目に回帰する要素を残しているのをみると、刀城言耶ものの中間決算的意味合いが強いのかもしれない。前半の満州からの引き揚げのくだりには、作者がこの物語空間を“歴史”に開いて、以て怪異に、恐怖とはまた違う畏怖へとつながるリアリティを醸成させたかったからかも、と感じた。と同時に、神事に固執して禍を招来する男が、戦前国家の暗喩でなくて何だろうか。それは、「水魑」によって沈=鎮められるのである。