深水黎一郎 『ジークフリートの剣』(講談社)レビュー

本日のエピグラフ

 (…)つまり彼女の目指した世界の浄化とは、単なる象徴的な意味ではなく、恐ろしいほど具体的な刷新行為だったのです。これが僕の解釈です。(P193より)

ジークフリートの剣

ジークフリートの剣



ミステリアス
クロバット
サスペンス
アレゴリカル
インプレッション
トータル43


 芸術小説が、対象作品に対する批評的言及、あるいは批評小説たることを志向するのは当然として、それがサスペンスを必然的に醸成しているのは、作者の筆力の賜物。謎解きのあとに訪れる、真のクライマックス。「炎」は一瞬の幻影を現前させたあと、“灰”を残して消え去りゆく。この上質な戦慄と、カタルシス。この作品がこの作者にとってのアベレージに過ぎないかも、と想像すると、何だか空恐ろしくなるけれども。