有栖川有栖『長い廊下がある家』(光文社)レビュー

本日のエピグラフ

 「皮肉の一語で片づけるなら、幸福にもありがたみはない。(…)幸福なんてものは、今わの際に『死にたくない』と叫ばせるために、皮肉な神がこしらえたものかもしれないぞ」(「ロジカル・デスゲーム」p.264)

長い廊下がある家

長い廊下がある家



ミステリアス
クロバット
サスペンス
アレゴリカル
インプレッション
トータル41


 定型を外したものでも、ソリッドな味わいはいささかも損なわれない。大家の風格は、アイデアの小説的処理のクレバーさと、アフォリズムのセンス、それに語り手の有栖川の道化ぶりが小説を適度に矯めているところに表れている。掉尾を飾る「ロジカル・デスゲーム」は、有名な合理的選択をめぐる命題を取り込んで知的パズルを構成し、以て寓話の域にまで高めた逸品。