植村和秀『昭和の思想』(講談社選書メチエ)

昭和の思想 (講談社選書メチエ)

昭和の思想 (講談社選書メチエ)



エジプト動乱の最中に、二十世紀的思想の中核をなす「政治的なるもの」の日本における発現形態である「昭和」の思想を概覧するのは、なかなかの感慨を覚えた。本書でも指摘されているが、二十世紀的思想は基本的には旧列強国の言論空間のなかで醸成された。それが時差を伴って、他の地域に伝播していく。これから起きるだろう中東動乱は、遅れてきた二十世紀として展開するのか否か。………著者は、丸山眞男平泉澄を「理の軸」で結び、西田幾多郎蓑田胸喜を「気の軸」で結んで、この各思想家が昭和史にコミットしたトピックを取り上げ、以て「昭和」の思想を形作った「政治的なるもの」の展開と帰趨を説き語る。平泉の皇国、丸山の市民主義、西田の「世界形成」=世界新秩序は、否定神学的な蓑田の日本主義に、ある種の生々しさという点で、現在においても超え出ているものだろうか。そして、日本の二十世紀的なるものにおいて、阿南惟幾の自決に匹敵する政治的決断は、果たしてあっただろうか。